ANOTHER SIDE OF 新大陸
                   原作 pee 脚色 ゆう    
1.酒場にて・・・・
この店の二階は安っぽい売春宿になっていた。日頃、女とは無縁な荒くれ男達も
金さえ払えば、酌をする女達の中から気に入ったのを選んで楽しむことができた。
「彼」は酒を喉に放り込むと心に広がる闇のような”穴”を埋めようと柔らかく
怠惰な時間を過ごす為に二階への階段をゆっくりと上がって行った。

彼の日常は”音楽”と”心の空白”によって占められていた。人々の心を癒す為
の”音楽”がかえって彼自身の心を虚無化していく。そんな堂々巡りに気付かず
破滅へのシナリオの幕が開いた。

卑猥なあどけなさの残る娼婦の部屋で「彼」は突然数人の男達に襲われた。
度重なる金銭トラブルと「彼」の求める”音楽”の為に業を煮やした男達。
銃の台尻で殴られ「彼」の意識は奈落の底へ・・・・。

    
2.卵
頭の芯に鈍い痛みを感じながらもようやく「彼」は意識を取り戻した。
「彼」以外誰も居ない荒れはてた室内。朦朧とした「彼」の目に床に散らばった割れた
鏡の破片が映る。その一つ一つにそれぞれ違った自分が映っている。
突然「彼」は、昔聞いた「コロンブスの卵」の話を急に思い出した。
既成の概念が壊れたところから新しい物が生まれて来るという話を。
そして遥か昔東洋の大陸にいたという偉大な識者の名前も・・・。

    
3.まつり
窓の外を沢山の着飾った人々が楽器を鳴らしたり踊りながら通って行く。
今日は年に一度の”まつり”の日だった。
「彼」も遠い昔、子供の頃は”まつり”が待ち遠しかった。
その特別な高揚感や非日常的ないかがわしい感じが興奮を呼んだからだ。
しかし”まつり”に潜む恐怖にも似たその本当の意味など考えた事も無かった。
ただ年に一度だけ思う存分”喜怒哀楽”を発散させている大人に自分もなりたかった。
しかし大人達は自分の魂を一瞬でも本当に振るわせていたのだろうか。
今大人になった「彼」はつまらない男だった。魂など振るえた事も無かった。
「彼」は、今初めてどうすれば自分自身の”まつり”を取り戻せるのか、考え始めた。
    
4.砂漠
彼は街から逃れ出た。行く当ても無くいつしか足は砂漠へと向いた。
それは幾多の時代、幾多の人々の命を埋もれさせて行った砂漠だった。
ここを越えればいつかは別世界へと行けるかもしれない。
今までずっと夢見てきた、いつかは砂漠を越えて遠い世界へ行くことを。
しかし「彼」は気付いた、「彼」の心の中も行けども行けども何も無い砂漠だった。
何と言う事だ、自分は何の為にこんな情け容赦無くも荒れはてた心を抱いたまま生き
て死んで行くのだろうか。彼の激しい感情の起伏をあざ笑うかのように頭上の月は静かに
青く輝いている。
「彼」の心の穴を風が吹き抜ける。「彼」は重い足を引きずりながらそれでも歩いて行く。
    
5.港町
「彼」は遂に歩き通した。
そしてとある港町にようやく辿り着いた。 そっと「彼」に近付く一人の男、神の話を語る。
男は「彼」に神の創った理想郷に行く船の話をした。「あなたは神に選ばれた」
神への忠誠心と引き替えに「彼」は男からチケットを買った。
海を越えて行けば答えが見つかるかもしれない、そう思ったから。

    
6.船出
  
朝靄の中、ついに希望の船出。
未来は保証されている。
この船に乗って行きさえすれば、理想郷の大地が踏めるのだ。
そして本当の自分を見付けて人生の答えを得ることが出来るのだ。
    
7.この船は・・・・。
長い航海の間に「彼」は少しづつ気付いて行く、自分の乗り込んだ船の本当の姿に。
それは神を語る者達の奴隷船。
「彼」は考えた。 忠誠心・・・神へのか?
ただすり替えただけなのか・・・? 国への忠誠心、愛への忠誠心、金への忠誠心を。
そうかもしれない、そして果たして何を手に入れたというのだ。
「魂」を売り渡してまでして俺は何を買ったんだ。

「彼」は奴隷船から逃げ出した。
    
8.波に漂う小舟
大海原に漂うボート、心身共に力つき横たわる「彼」。
板一枚の下に潮の流れを感じる。見上げた夜空に星々の煌めきを見る。
「彼」は大自然の巡りを感じていた。
「彼」は孤独だったけれど生命の流れに気付いていた。
海の優しさに包まれて漂っていた。
    
9.島
「彼」が街にいた頃は人々は忙しげに歩き空や自然など誰も見向きもしなかった。
今「彼」は感じていた、波に揺られながら自然の意志を。
「彼」は見ていた、死の深淵の縁に立ちながら蜃気楼のような「新大陸」を。
それは儚げな生の実感と共に見え隠れしている。
「彼」は落ちて行った。
 
 
 10.変化
 波打ち際に「彼」が木片と共に打ち上げられている。
 深い闇の底からの生還者のように朝日の中、「彼」は目覚める。
 ここはどこなんだろうか?見たことも無い土地。
 彼は紛れも無く「新大陸」に立っている。
 しかしそこは何の変哲も無い土地と街だった。
 それでも「彼」にとってそこは本当に紛れも無く「新大陸」だった。
 「彼」の中で何かが変わっていた。ただそれだけだったが・・・。

 11.命
 星々に命が有るように、「彼」にも命が有る。
 星々に巡りが有るように、「彼」にも刻の流れが有る。
 もう恥じることも飾ることも何もない。

 解放されるべき全ての「魂」に歌う。

  

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