温泉と脳梗塞に関する論文
倉林 均、田村耕成、久保田一雄、田村遵一:
「温泉地における脳梗塞患者の血小板形態と凝固線溶系の変動」
日温気物医誌 55(3): 143-155, 2003.

                                                     2006. 5. 5

1. 要旨

 この論文は、草津温泉に居住もしくは滞在していて脳梗塞を発症し、群馬大学医学部附属病院

草津分院に入院した脳梗塞患者さん13例の血液データを解析しまとめたものです。急性期、亜急

性期、慢性期にそれぞれ血液を採取し、血小板の活性度を測定。動脈硬化症10例、健康成人8例

の方々と比較検討しました(注:血小板は、皆さんご存知のように、血液を固まらせる作用がありま

すので、血小板の活性が高ければ高いほど、また、形態変化が大きければ大きいほど、血液はド

ロドロだと考えて差し支えありません)。

 その結果、まず、脳梗塞の発症していない動脈硬化症の人でも、すでに血小板の活性化が認め

られました。また、血小板の形態変化等と動脈硬化の程度とが密接に関連していることが示され、

血小板の形態変化を観察することで脳梗塞発症の危険性を予知できる可能性が示唆されました。

 考察として、脳梗塞発症前から血小板の活性化が存在するのは明らかであるから、適切な温泉

浴、すなわち、入浴前には飲酒をしない、42℃以下の入浴をする、入浴後には適量の水分補給を

するといったことが、脳梗塞予防として推奨されると述べられています。


2. 意見

 まず、この論文では、温泉地での脳梗塞発症患者さんを対象にした研究ですが、決して温泉浴が

危険であると言っているのではありません。

 温泉には、血圧を下げたり、全身の血行を改善したり、利尿効果による心不全改善作用がある

など、様々な効用がありますが、逆に言えば、血圧が下がりすぎると脳貧血や脳梗塞を起こしたり、

脱水によって脳梗塞を発症したりすることがあるわけで、このような温泉浴の功罪を、われわれは

しっかりと認識しなければならないのです。

 動脈硬化というのは、以前にも説明いたしましたが、一言でいえば、動脈が細くなる現象です。

血液の通り道が細くなってしまうので、血液がドロドロしていると詰まりやすくなってしまいます。

血液がドロドロしないようにするためには、バランスの良い食事をとり、十分な水を飲むことが

非常に重要です。もちろん、飲酒は「脱水」ですから、ビール等は水分補給にはなりません!!

 動脈硬化の程度というものは、見た目や血液検査だけではわかりません。眼底検査や、頚動脈

超音波検査、脳血管画像(MRA)などで初めて知ることができます。また、心臓から末梢に血液

が流れる速度を測定したり(脈波伝播速度)、手足の血圧を測定し間接的に全身の動脈硬化度

を算出するという方法もあります。

 やはり、自分の動脈硬化度は知っておいて損はありません。もし、脳の血管が細いということが

あらかじめわかっていたら、自分に将来発症してしまうかもしれない脳梗塞を予防できるかもしれ

ません。

 体質や体格は遺伝しますから、もし、家系に脳卒中を患ってしまった方がおられるのなら、一度、

脳ドック等で動脈硬化度をチェックしてもらってみてはいかがでしょうか。







TOPへ