1)脳卒中とは? 


 脳卒中は、脳出血、くも膜下出血、脳梗塞などの、突然脳内に発生する病気の総称です。みなさ

んもご存知のように日本人の3大成人病の1つで、死因では、悪性新生物(がん)、心疾患に次いで

3位となっています。さて、この脳卒中が気候とどのような関係があるのでしょうか?


2)脳出血


 脳内の微小血管が切れて出血を起こしたもので、原因の多くは
高血圧によるものだと言われてい

ます。したがって、私たちは、血圧の変動にもっとも注意しなければなりません。


 九州の久山町では、24年間で311例の脳卒中患者が発生しました。そのうち脳出血は51例で、

発生頻度を見てみますと64歳以下の人にははっきりとした季節変化があり、とくに高血圧や高脂血

症の持病がある人に特徴的だったということです。また、
平均気温が低いと脳出血が起こりやすく、

とくに男性の場合には、日中の気温変化が大きいと出血しやすい
ことがわかりました。(Shinkawa A

et al., Stroke 21(9): 1262-1267, 1990)


 日中の気温較差が大きいほど、脳血管障害や心臓病による死亡率が高いとも言われています。

具体的には
1−2月、晩秋、早春頃です。(Tomari T et al., 日本公衆衛生雑誌 38(5): 315-323,

1991)


 台湾での調査では、11年間で脳出血による死亡者は39,818人(760万人の25歳以上の住民のう

ち)いましたが、外気温が1℃上がるごとに死亡率が3.3%ずつ下がっていったそうです。(Pan WH et

al., Lancet 345: 353-355, 1995)つまり、
気温が低ければ死亡率が上がるということで、温度調節

が苦手な高齢者の方々は注意が必要です。


 '86〜'92ロンドンでの調査では、50代・60代の男性の血液データと気温変化、虚血性心疾患・脳

血管障害による死亡率との関係を調べたところ、短期間での気温低下により血中ヘモグロビン値、

赤血球数、血圧などが上昇することがわかったということです。しかも、その効果は1−2日間継続し、

そのために血液粘調度増加や高血圧が遷延するがために
心疾患や脳血管障害による死亡率が特

に冬に増加する
のだろうと推測しています。(Donaldson GC et al., Clin Sci 92(3): 261-268, 1997)


 寒い国ロシア、シベリアでも、'82〜'92の調査報告があります。脳出血を発症した患者は215人で、


穏やかな気温の時に起こりやすかった
としています。(Feigin VL et al., Eur J Neurol 7(2): 171-178,

2000)


 以上をまとめますと、とくに


 
1)気温の較差が激しい日

 2)男性で高血圧、高脂血症の持病がある人


 は、脳出血に注意が必要となります。


3)具体的予防法


 では具体的にどうすればよいのか、ということになりますが、ポイントは血圧の変動です。気温の較

差が激しいと、それに応じて手足の血管は収縮・拡張し血圧も変動しますが、正常の人間には

autoregulationという機能が働き血圧の変動を抑えようとします。したがって、大抵の人は脳出血を

起こさないわけですが、高齢者や動脈硬化が進行して血管の柔軟性が低下している人は血圧の上

昇を抑えきれず脳内の細い動脈が切れて脳出血を起こしてしまうわけです。このような血圧の変動

を抑えるためには、


1)寒い日には無用な外出は控える。とくに飲酒後は、血圧が変動しやすいので注意。

2)入浴前に、浴槽のふたをはずしておいて、風呂場内を暖めておく。

3)入浴後の脱衣所も暖めておく。

4)浴室内で体表面の水分を拭き取ってから脱衣所に出る。なぜなら、体表面についた余計な水分

が温度差・湿度差の激しい脱衣所で一気に蒸発し、体から大量の気化熱を奪うため体が冷えやすく

なってしまうから。

5)どうしても寒い日に外出するときには暖かい格好で出かける。

6)降圧剤や高脂血症の薬を飲んでいる人は、毎日きちんと服用する。

  


 以上のような点に注意していただければ、ある程度の脳出血の予防効果は期待できると思います。



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脳出血編
気候と脳卒中