華片

Dust Dance

木陰にて

夏時計

fallin’

EVE

天空の島々


Respect

逢いに

私について

私には炎が  − 2001.9.11 −




白い窓辺

会いたい人に・・






*          *         *












   華片




桜も空もひと色のもや 都会の夕暮れ
そぞろ歩きの人を薙ぎ掃う風 いっせいに
翠の淵に投下される華片
うすくれないに散れば 散れ

警官に付き添われ 通過するデモは静かに
畝々と停滞する尾灯 水面を下り捩れる反旗
花はあとからあとからいくらでも降る
からくれないに散れば 散れ

あの春に別れた姉の聡明な声が
さすらう群れの中で私を立ち止まらせる

おもえば
不条理な細胞の侵攻に
自由を愛した女が許した組織の瓦解
明渡しはすみやかだった 必要なものは
臓腑の隅に狩り残された居留区ではなく
締め出された精神の避難所でもなく
散りゆく時の中から舞い立ち
山嶺を越える一頭の蝶

あの春の宵の 姉の吐息が
さだめなく浮遊するひとひらの行方にかかる
華片をあつめなさい
羽をつくろいなさい
人影の消えてゆく黄昏の向こう
うすくれないに いざ越えてゆきなさい

集められるでなく
水に流れるでなく

そして枝先の揺籃でふるえるものよ
私と同じ残されたものよ

迎える闇の しばし 花明りとなれ。



(2003.5)








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Dust Dance
 
 

光が
透き通ったフリルに包まれた君の腕を賛美し
その後ろで
空の高みを飛行機が横切っていった

ぼくたちは顔を見合わせて破顔(わら)い
そして 泣いた

きらめく花粉の雨の中
子供がころがっている
あるいはぼくたちの子供だったかもしれないし
ぼくたち自身だったかもしれない

街の破片をざくざくと踏んで
傷だらけになった足は
もう地球の上では踊れない

みんなして火星へお引越し?
そっちにもだいぶ人が増えたろうね
白い鳩をつかまえてハンケチに変える
鼻をすすってる君に渡す

マーク・ボランに尋ねてあげるよ
招待状はいつ送ってくれるのかってね

虹色の花粉を
胸いっぱいに吸い込んで
ぼくたちは長い夢を見る
草の上に脱ぎ散らかしたbootsは
夜になったら馬車になる


(2001 summer)







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木陰にて

          




君のたしかにいた夏は
栩の葉裏にとりついて それから
背中を割って宙へと飛んでいった

光追うさまよいびとの君と
真っ暗な峠道
ヘッドライトの長い帯の先に見える明日の話をしながら
でも ほんの少し朝が先延ばしになってくれるように
願いながら
家路についた
夢を美味しそうに吸い込んで煙にして
朝日の昇る前に本物のパンにありつくためのひと仕事
(君はパンの運搬人に変身する)

それからというもの
不思議と君と鉢合わせたあの街の通りで
まさしくあの通りで
君の知らせを聞かされた
取り落としてあわててジャグリングしながら
ついにつかみそこねたみたいな
君の大事な夏
終わってしまった日

逃げ水の銀色が眼の中でずっとかがやいていた街を歩き
公園へ行き
姿なきたくさんの僧侶たちの読経をきいた
そして 手を伸ばし
命の抜け殻をひろって陽に透かしてみた
その脆い生命のかたちを片手で粉みじんにしたかった
私に比べたら
君の悪ふざけはなんと優しかったのだろう

君が押したカメラのシャッターはきっと
開かれたままになっている
フレームに誰かが入って来ては私に笑い
声を掛け
また出て行き
人と人を結ぶ光跡が壮大な地図を描く
それを見ている

誰のせいでもない

誰のせいにもしないこと

君が笑っていた あの街の通り
欠けた歯
世界の覗き窓



(2003.3)










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   夏時計
 

 風の匂いをおぼえて
  風のさざめきを忘れた

 葡萄棚の上は入道雲
  葡萄棚の下の淡い戯れ

思い出す・・?
綾織りの緑蔭を
僕と君はお気に入りのピンナップを集めて
合歓の柔らかい花で君の顔を彩った
このまま美しい人におなり
誰からも愛される

すると風が吹いて
あらゆる木々の声がして
夏の午後の時計が傾いだ

僕は町を出た
ピンナップは持ってきた
引っ越しのたびにそれは壁に日焼けの跡をのこした
ヒートアイランド
ぐにゃりと曲がった時計は
死後の時間だけを刻みつづける

 雲の匂いをおぼえて
  雲のかたちを忘れた

 葡萄棚の上には赤蜻蛉
  葡萄棚の下の鬼ごっこ

あの時のまま
つかまえていて欲しかった
30年後のDavid Bowieの悲しみの中で抱き合って
乾いた裸足の指を絡めて
君の頬に紅が戻るまで
おんなじことを繰り返す

 愛の匂いをおぼえて
  愛の時間を忘れた

だからあらゆる木々の葉を撫でて風が歌うとき
その時にだけ君を思い出す


(2001.7)







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fallin'
 
 
 

雨が
ひとつぶ頬に触れる
それはあなたからのkiss
 

雨が
ブリキの如雨露に溜まる
それはあなたからの手紙
 

雨が
森の木の葉を騒がす
それはあなたからの誘い
 

雨が
窓の硝子を叩く
それはあなたからの叫び
 

私は

   駆け出し

      雨に濡れる


(2001.11)







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  EVE
 

夜の電信柱は
こっそりと古いチラシをはがす
やせこけた胸を
口笛で野次る風にさらして
投げ出された電柱の下着は
酔っぱらいの足をもつれさすけど
そんなこと
私達は知らない
音楽は
ジョン&ヨーコにしましょう

踊り飽いた時間がゆっくりと衣服を脱ぎ
透明な身体を横たえる時
ストーブの中で地球の半かけが燃え
やかんの甘いあえぎに胸くすぐられて
私達は
おとなしく暖まる

足の先でゆびきりげんまん
もっと
すき間を埋めて
シーツの中で
カンガルーの子供になって
膜の張ったひとみが見上げる宇宙は
ちかちか揺れる豆電球

目を閉じて
空高く心舞ったら
天上の君子たちの精液を集め
凍えた夜空に降らそ
あしたは
クリスマス


(1985?)


 






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天空の島々



薄絹の雲の下 水平の虹があらわれ
その耀(かがよ)いが 微笑みの明日を告ぐ

眼下に星々ら 路標(みちしるべ)を灯し
海は天空に 島々を抱き

墜ちゆく星のかけらのごとく 旅立つ
闇を切って次なる煌きのひとつぶとなる
鳥よ

その疑問で見開いた眼の中
人類の恐怖さえ掬い入れて閉じ込めた
犠牲者よ



僕らは
バオバブの木のように

さかさまに根を下ろした地球で
この内なる水が 重たく 
膨らんで 膨らんで

こらえきれないひと雫がうまれ
あの海へ落ちていくのだ
高く



どれほど夢の反芻に心を砕いたところで
今より前に刻(とき)は存在せず

だからこそ
彼らの飛翔は かけがえのないもの
人類は 空へ 落下する

刻(とき)を漕ぎ寄せてこそ
鳥たちは 地を離れ舞い上がる



古(いにしえ)の夢に 棲むことを願う愚か者
眼前の星を焼き尽くすがいい
そのあとで お前の天使の在所を見上げるがいい

僕らは

永久の翼に憧(あくが)る 貧者なのだから

孤独の櫂をともがらに 無形の島々をめざすのだ
虚しく漕ぎ止まぬ
両腕で




(2003.9)







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   Respect
 
 

月は草原にあって遥かに遠く
小さく 青く
ピアノがはじいた一鍵の音の名残り

草の露はそれでも月を知っている
風は退いて耳を傾け
生きものはそのこわれやすい心に敬意を払う
 

街・・・

膨らんだ疑念
赤く発熱する不安

月は
    時に
消える
 

だから 手のひらで水を掬い 
心を映して
針葉樹の森が待ち侘びている
あの空へつづく道を

君の尊さを支えて
 

夜よ
    私の指は

あまりに細い
 
 
(2001.9)


 
 
 

*          *          *


 
 
 
 



 逢いに






君に逢いにゆく

君に逢いに

スケート靴はいて

蹴って

自分を蹴って

錯乱した風の枝葉

振り返ってももう見えない

無音だった光跡

河を

のぼれ

谷底を縫え

荷物は凍りついている

額は熱にうかされている

翔けて

蒼穹の縁に刃を立てて翔けて

2月が来て

光は鉱物になり

或る高みに達すると

完全に結晶化して人生を締め出す

人生が何

君に逢いにゆく

氷上の

天然の凹凸を

エッジが乗り越える時

あるはずの無い

肩の上の両翼のざわめき

貫かれる

クピドの矢に

胸さらわれ

薄く敷いた雪によこざまに倒れる

星が

攀れる

息づかい

君の息づかい

数えてみる

私は

目を閉じて

遠いみずうみの氷の軋みを全身に抱く

君に逢いにゆく

君に

永遠のリンク

いつか君に追いつく



(2004.2)




 
 
 

*          *         *












私について

 
 
 

記憶をひらいて
透明な糸であなたをここに縫いつける

宙を泳ぐ糸は
少しだけ色づいた光をもらい
心を掬う針は
あなたの温もりを孕んで身体にもぐる
ひと針ごとに

秋の日の中で 
そうやって私がかたちづくられる
誰に愛されるか
誰に抱かれるか
白紙に包まれて木箱の中で眠りつづけるか

うなじから背骨へと連なるかがり目を
辿っていけば
そこにあなたの言葉が読める
かつて
みずから綻びの服を纏って笑っていた人

「ごらん 季節を
 街にはエンジュの黄色い花が
 降っているね
 散り敷かれた花は
 雨に溶かしてやりなさい
 長い雨がすぎていったら
 キンモクセイの香が匂ってくるから」

目を開けた私は
微笑んで世界に両手をのべる

この胸につながる
ひとすじの糸は
口に含んで断ち切ってしまうこともできるけれども
心をこめて
ふたたび繕うこともできる

私は針を持つ
そして
動かす事を知っている


(2002.9)

 

 


*          *         *













私には炎が

    - 9・11/2001 -
 
 
 

私には炎が
頸動脈を切られた人間の
鮮血に見えた

くずおれる骨が
ひしゃげ 捩れ 曲がり 重なり
あなたはそこに最期の言葉を見るだろう 
W  H 

Y と・・ 

ニ本脚で立つことを覚え
記すことを見出したのは
間違いではなかったか

詩人たちの言葉は
死を見通しても遺されなければならなかったか?
そのこころが量った冥い星
燃え尽きた太陽
飲み干された月 

では
口を噤もうか? 

四つ這いになって瓦礫を背負い
馬乗りになって心臓を押し
顔を覆い
耳を塞ぎ
腹這いになって進む者と
仰向けにされて目を閉じる者の傍らで
ふりしきる炎に焼かれようか 

しかし あなたは
あなたがまだ
そこにいるなら

鮮血に染まった骨を拾い
積もった灰に書くだろう

O  W  と。


(2001.9)


 





*          *         *


 










         翼

 
 

水平線のうしろから
気丈にもまた朝が立ちあらわれた

夜を残した空
残された街
の鉄塔のかたわらに
すべてを見てきた月があまりに完全な姿のまま
ありのまま 進むまま 私のあとをついてくる

人々は
海の上を綱渡りする

朝が霞を纏うのは
恥を身請けするいさぎよさから
その柔らかな灰色と薄紅の
紗羅の下で相まみえる月の同胞を見守りつつ

誰ひとり 口を開かず
ただ 祈りが
 行く末を共にするわれわれを染める
レールの上を行くちっぽけな箱に詰められた人間
その脳裡には
箱の中で失われていった前世紀がよぎったろうか

どこへゆく
無心に月を見つめる子供の目

翼がふるえ
ゆるやかに地を離れ
星のともがらとして迎えられたわれわれを
夜明けの先へと運ぶとき

君の瞳を見つめよう
そのまるい
青みにうっすらと添うふちどりに きっと
航路は示されている


(2002.4)


  



*          *         *








白い窓辺




い つも鳥たちが遊びにくる白い窓辺には

彼 女の鉢植がありました



窓 辺の鉢植が枯れないようにと

彼 女は祈りました


右 腕は


全 てを凍らせる冬の病に侵されて


願 いをつづる僅かな力さえ 残してはくれませんでしたが


彼 女にはまだ 左手がありました


そ の一本の腕


五 本の指で


彼 女は色とりどりの翼を折りました


自 分のあとにつづく幼い者が


怖 がらずに


淋 しがらずに


飛 べるようにと



窓 辺の鉢植は雪に埋もれ

彼 女は眠ってしまいました



春 が来て

友 達は彼女を起こすのを忘れてしまい


卒 業して 家を出て 退屈して 恋をして


彼 らは遠くへいってしまったのです




彼 女の残したたくさんの翼は

街 の寺院に飾られました


雨 に打たれ


ま た乾かされ


う ずもれた落葉と見分けのつかない


しゃ がれた色に変わって



あ る日 


く たびれきった

埃 にまみれた外套と同じくらい


ど うでも構わなくなってしまった空しさを抱えて


男 が 野ざらしの羽の塊に眼をやり


そ れがちょうどよく乾いていたので


ラ イターを擦って


そ の隅っこにかざしました



め らめらと燃えて

炎 が


風 にちょっと千切れて


誰 もいない


夜 空に舞い



顔 を照らす射光を感じながら

男 はわらいました



陽 炎になって

闇 に昇りながら


彼 女もまた


わ らいました



わ らいました


星 のように。




・・ ところで

彼 女が置いていった

窓 辺の鉢は


最 後に彼女の身体を拭いた


看 護人が


黙っ て持って帰りました



そ の庭で

い まひとたびの


そ して


看 護人がときどき思い出すていどの


春 のときたまに


そ こで咲いているのでした。









*          *         *








 

会いたい人に・・

          (song for my friends・・)

  

  空が青く染まる
  あしたの歌が聴こえ
  光が雲の切れ間から
  あなたの道を照らす

街の記憶 壊れた青空のか けら
みんな手さぐりで探している 祈りの中で
誰かの夢 誰かの約束の言葉
それをきっと届けるため あなたは歩いてゆく

世界中の愛し合う人の
心は心をみつけて
星は空を翔ける

遠い季節 輝いた日々のか けらが
今も胸を刺す 痛みと愛しさの中で
あなたの声 あなたの囁いた言葉
それに支え導かれて 私は歩いてゆく

世界の果てで夢見てた人と
必ずめぐり会えるから
星は時を超える
だから

空をふさがないで
あなたの歌をとめないで
光が雲の切れ間から
明日の道を照らす

人は空を越えてめぐり
命の歌をつなぐ
私は空を抱きしめる
あなたにとどくために


    (これは友人の曲 のために書いた歌詞です)







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