1.ティム・バックリ−の
Song To The Siren
でも今回のテーマは、クイーンより少し古い歌の事。
今年の七夕頃の私は、なぜか60年代アシッドフォークばかりを聴いていました(というのは日記にも書
きましたが)。ちょうど試験前で頭がテンパってて、賑やかな音を聴けなかった事と、その少し前に友人が送ってくれたティム・バックリーを取り憑かれたよう
に(笑)聴いてたのです。その中に特別に私の心をとらえてしまった歌があって、、題名は『ソング・トゥ・ザ・サイレン』。
訳詞も解説も無かったのですが「ヒア・アイ・アム(私はここよ)」「セイル・トゥ・ミー(こちらへ漕
いで来て)」という言葉の繰り返しにもしや、と思い辞書を引くと、SIRENという英語は普段知っている(警報)の他にギリシア神話に登場する(セイレー
ン)の意味があったのでした。セイレーンは大変美しい歌声で船人を惑わせ、岩礁に引き寄せて船を沈めてしまう海の精のこと。古くは紀元前八百年頃の詩人、
ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の中、オデュッセウスが耳に蝋を詰め、マストに体を縛り付けてセイレーンの歌声から逃れ航海をつづけたという物語が詠
われています。(警報)という意味のサイレンは、この海の精が語源だったのです。
・・ギリシャ神話、ろくに知らなくてもっと勉強しなくちゃ、と思うのですが、そのセイレーンを素晴ら
しい歌で打ち負かしたのが、竪琴の名手で彼の歌に万物が見せられたというオルフェウスだとか。セイレーンは彼の歌にかなわぬことを悟り、自ら海に沈んで石
になったのだそうです。
セイレーンは英国の文学、絵画にもそれはそれは数多く登場し、アーサー王の騎士たちを惑わせ、戦意を
奪ってしまう乙女として描かれたり、英国を代表する画家ターナーの作品にも、身体をマストに縛りつけセイレーンの歌に対抗するオデュッセウスの絵がある
し、ラファエル前派に至っては、水と妖精は破滅と死へ導く官能的ないざないとしてさかんにテーマに取り上げられました。
さて、、ティム・バックリーの歌。。船影ひとつ見えない大洋・・長い孤独な漂流の果てに聞こえ
てきたセイレーンの歌声。生と死の誘惑と葛藤。セイレーンの歌に心を奪われたみたいに『ソング・トゥ・ザ・サイレン』に魅せられたばかりに、ティムのアンソロジー『morning glory/Tim Buckley Anthology」を
買いましたが、その解説によれば、67年にティムが相棒ベケットの見せたホメロスの『オデュッセイア』を前にしてこの曲を作ったのだそうです。