** 絵 / 仲井戸麗市 (1990年) **
日本語を聴くCD、ということで大好きなCHABO
さんのソロ2作目の『絵』を。
RCサクセションのたくさんの歌も好きでしたけど、当時からCHABOさんが大好きだった。華やかな
色を持った清志郎さんも素敵だけれど、モノトーンに徹したチャボさんに惹かれてて、何かのインタビューでチャボさんが好きなギタリストとしてブルース系の
ギタリストと共にトム・ヴァーライン(Television)の名前を挙げていたのがまた嬉しくて、その少し後に出たチャボさんのソロは私が抱いていた
チャボさんの大好きな印象、人づきあいがちょっと苦手で、引っ込み思案で、甘くは無いけど心から正直で、胸の底に絶対に許せない怒りを抱えてて、でもひさ
こさんが大好きで・・。そして何より素晴らしかったのが歌詞。
幸いCHABOさんのホームページのディスコグラフィーには全部のCDが載っているし、歌詞も全部掲
載されているので、読んでみたい方はそちらでチャボさんの詩の世界を味わって下さい。
それで、どうしてこの『絵』というアルバムを選んだかと言うと、ここには俳句を歌詞にした歌が
あるからなのです。「スケッチ'89・夏」という曲。ここには、三つの句が歌われていて、私
の記憶違いでなければ、チャボさんのお父様がつくられたものだとか。たしかご友人か、大事な方を亡くされた心境を詠まれたのだと思います。(もし、記憶違
いでしたらご容赦下さい)
お別れの 何か告げてる 目の涼し
コラもっと 日陰歩けよ 黄泉の道 (「ス
ケッチ'89・夏」歌詞より)
チャボさんはそれぞれの句を2回ずつ繰り返してゆっくりと歌っています。日本語は、とりわけ俳
句や短歌は、読む時のスピードがとても重要なものです。というよりも、世界でも最も短い詩形の中に凝縮されている思いの量が、声として開かれた時、さっと
読み上げて次へ移ることををゆるさないのだと思います。ここに歌われた句の素晴らしさと同時に、チャボさんが2回ずつゆっくりゆっくり歌ったことで言葉に
こめられた思いがいっぱいに伝わってくるような、そんな歌。(句と歌の優しさに何度も泣いた歌です)
もちろん、チャボさん独自の詩も、言葉の微妙な使い方におどろかされるところばかり。例えば・・
他へ行こう 他へ行こう 他へ行こう
他へ行こう 他へ行こう 他へ行こう
どこへでも ホーボーへ ホーボーへ
(「ホーボーへ 〜アメリカン・
フォークソングへのレクイエム」より)
「方々へ」を「ホーボーへ」と表すセンスに嬉しがっていたら、そんな程度の意味ではなかったの
ですね。「ホーボー」は英語で(Hobo)[houbou] 放浪者、渡り労働者、の意味。
ジャック・ケルアックの『孤独な旅人』(新宿書房 96年発行)の中にも「消えゆくアメリカのホーボー」と
いうエッセイがあって、ケルアックも時代と共に消えていくアメリカの放浪者たちのことを「ジェット機時代はホーボーを十字架に懸けつつある、だってどう
やって貨物輸送機に飛び乗るのだ?」と愛をこめて書いています。たしかに「方々へ行く」っていう言い方、最近はしなくなりましたよね。
ちなみにチャボさんのこれらの曲は、今年1月発売の「Chabo's Best Hard & Heart 」の中にも入っています。
仲井戸麗市さんのオフィシャルサイトはこちらです>>